ダイスン

Arsenalとその他もろもろ

クラブがEPLやCLで得る賞金は、高額の選手獲得コストに見合うのか

マンUがネイマールを200Mポンド(日本円でおよそ280億円)で獲得というゴシップ記事。バルセロナが設定したネイマールの契約解除金が200Mポンドらしい。一気にポグバ二人分である。

ポグバの移籍金が安かったと思われる日はすぐ来ると豪語したモウリーニョだが、これではマッチポンプもいいところである。

 

metro.co.uk

 

さて、ここ数シーズンはそれなりに投資をしたとはいえ、マンチェスター勢やチェルシーのような大きな投資をしないアーセナルについて、EPLのトップクラブよりはサウサンプトンのようなクラブに近いと評価する人もいる。たすかに。

この世には「ギャンブル」をするクラブとしないクラブ、できるクラブとできないクラブがあって、アーセナルはヨーロッパのトップクラブでは珍しいできるのにしないクラブだ。現金をたんまり持っているが、とにかく財布の紐は固い。

 

サンチェスやエジルといった看板スター選手の放出騒動を見るに、レアル・マドリーやマンUのようなガバガバ財布のクラブを筆頭にした、大きな投資でより大きなリターンを得ようとするメガクラブ流のやり方に、稼ぐ金額や人気においても、アーセナルのようなクラブがだんだんと追いつけなくなってきているような気がしてならない。成績低迷でファンだけでなく、選手たちもがクラブから心が離れていくような寂しさを感じないか。みんな。

 

ところでネイマールの件、もちろん子どもたちが憧れるようなスター選手を獲得することはクラブ経営にとってはチーム強化以上のメリットがあるはずだが、どんな選手であってもそれは基本的にはチームを強化するためのものであるはずだ。

 

クラブが選手個人に200Mポンドという莫大な投資をしたとして、それをどれだけの成功で回収できるのだろうか。気になったので、CLの常連であるEPLのトップクラブが各コンペティションからどれくらいの収入(賞金)を得ているのかざっくり調べてみた。

 

イングリッシュプレミアリーグの賞金

15/16シーズン、EPLで最終的に2位に滑り込んだアーセナルがEPLの賞金をもっとも多く稼いだクラブだった。

www.dailymail.co.uk

 

表はこの記事から。「公式:プレミアリーグ賞金2015/16シーズン」

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1位がアーセナルで唯一100Mポンド(日本円でおよそ140億円)を突破。優勝したレスター(6位)よりもだいぶ多い金額である。

 

細かく見てみよう。

分配金の項目を見てみると、まずTVのライブ中継の数。クラブによってだいぶ違うことがわかる。上位ほど多く下位ほど少ない傾向がある。生中継はTV局が視聴率を見込めるカードを優先しているはずで、クラブ人気とトップ争いに絡んでいるかどうかといったチームの調子の良さに比例していそうだ。チェルシーのライブ中継数が少ないのは間違いなく彼らが低迷したシーズンを送ったからだったろう。

つぎにMerit moneyとあるのが成績に応じた賞金で、リーグ戦の最終順位(勝点順)と同じなので、もちろんレスターが1位でアーセナルが2位、以下同となる。

Facility feesが入場料収入。ホームスタジアムの収容人数(と入場者数)に応じた金額になっている。なお脚注によればTV生中継数に応じた一律の分配金もありそれもここに含まれるようだ。さすがチケット代金も最高級というエミレーツ・スタジアムを持つアーセナル。トップだ。

国内と海外のTV放映権収入は全チームに等分で分配。この金額がでかい。Merit moneyやFacility feesを上回っている。

最後がEPLの広告収入でこれも等分。

 

(ところでスペインリーグはトップと下位クラブの賞金差に大きな差があって上位がどんどん強くなるという構造的な悪循環があるそうだ。プレミアリーグでは15/16シーズンの実績で最下位でも66Mポンドとトップとの差は倍もない。下位クラブも大物選手を獲得できるチャンスがあるし競争力も維持できる。結果、リーグ全体がよりコンペティティブになって面白くなるという好循環がある)

 

ということで、EPLでもっとも稼いだクラブでも100Mポンド。ネイマールの移籍金にすべてをぶち込んでもまだその半分しか賄えない。

 

UEFAチャンピオンズリーグの賞金

続いてUCLの賞金について。EPLからは毎年上位4チームが参加しているが、しばらくスペイン、イタリア、ドイツの壁が厚く、なかなかいい成績を残せていない。

 

www.dailymail.co.uk

 

チャンピオンズの賞金は15/16シーズンから大幅アップとなっているとのこと。近年のグローバルなフットボール人気の高まりが反映された結果だろう。

 

表はこの記事から。「チャンピオンズリーグ賞金の増加」。各ステージで軒並み50%近く増とジャンプアップ。

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詳細は省く。15/16シーズンから、グループステージから始め優勝まで進めば最大54.5Mユーロ(約46Mポンド)に、TV放映権料などが含まれるマーケットプールから最大40Mユーロ(約34Mポンド)ほどが支払われるとのこと。

 

CLで優勝して得られるのが総額でだいたい80Mポンド(日本円でおよそ110億円)になる。

 

意外に少ないと思わないだろうか? 表をよく見るとわかるように、もちろん優勝(決勝)まで各ステージで賞金は上がっていくが、上がり幅は思ったほどではない。

 

 Aクラブ(例:アーセナル)

 グループステージ全勝+ベスト16(2敗)敗退 = 21Mユーロ

 

 Bクラブ(例:バイエルン)

 全勝優勝 = 54.5Mユーロ

 

このかたや万年ベスト16止まりで批判されるクラブ、かたや世界最強と賞賛されるクラブ。その賞金差が33Mユーロ程度。

 

プレミアリーグにおいては、マンUやチェルシーといった実力やクラブの規模的にCL優勝を目指すことが現実的なクラブが出場権を逃すこともあるなかで、事前に「絶対優勝はない」と断言できるアーセナルのようなクラブが20年ものあいだCLにコンスタントに出場し続けていることで得られた財政的なメリットは計り知れない。

 

つまり優勝を目指し巨大なリスクを負いチームを変革するよりも、ビッグクラブに惨敗したとしても継続的なチャピオンズ出場を目指す保守的なクラブがあっても驚くべきことではない。リスクをかける経済的なインセンティブが低いのだ。

 

結論として、EPLとUCLを制しても賞金はネイマールの移籍金200Mポンドに届かない。プレミアリーグとチャンピオンズリーグで優勝という、ヨーロッパのフットボールクラブとして考えられる限り最高の結果を残しても、賞金額に限れば、1シーズンでネイマール1人分に満たないのである

 

では、リスクを賭けてこれほどまでに選手獲得に大金を投じる理由は何か。

 

 

選手に大金を投資するのは正しいのか

クラブが得る収入はもちろん賞金だけではない。その他のもろもろも含め、アーセナルの場合2016年のグループ収入は353.5Mポンド(日本円でおよそ493億円)だという。これはヨーロッパでトップ10に入る数字である。

 

それでもなお、選手の獲得に大金を費やすのは間違っているんだろうか? クラブの規模に合わないスター選手を買い漁っている中国リーグは持続可能性について疑問を持たれている。現在の市場で移籍金を釣り上げているのは間違いなくプレミアリーグで、バブル景気と揶揄されることもある。

 

このEPLの景気を支えているのが放映権料収入だとすると、新興国での新規市場開拓が真っ最中というこのフェーズで、大金を投じて華のあるスター選手を獲得し、チームを強化するだけでなく、クラブの知名度や人気を上げる大胆なブランディング戦略が間違えているとは決していえない。

レアル・マドリーやマンUといったメガクラブはチームを強化するだけでなく、クラブのブランド価値の最大化を目指した選手補強をする。そして成功している。成功が金を呼び、選手を呼ぶ。実力もやがて伴ったものになっていくだろう。問題は投資がペイするかしないかだけだ。200Mポンドがクラブのブランド力向上に貢献するかどうか。

 

プレミアリーグやチャンピオンズリーグの賞金だけでは、200Mという移籍金は到底見合わない。つまりそれがクラブがブランドのために投資をするということだろう。それはいずれリターンが見込める、選手個人の移籍金などという金額では測れないほど大きなもののはずだ。

 

おまけ:アーセナルのブランド価値は毀損している

アーセナルのファンは彼らにそんなクラブになってほしいわけじゃないというだろう。ただアーセナル経営陣の守銭奴的な態度は時代の趨勢に逆行していることは確かだ。その結果が、いまこの瞬間まさに成績は低迷し、スター選手の放出を強いられるという現実に直面している危機である。投資を拒み、変化を恐れたクラブの末路がこれだ。そういう意味では中途半端な成功体験が仇になった不幸な事例といえるのかもしれない。

 

時代が進むに連れ、若い選手が子どもの頃に熱狂したアーセナルへのあこがれを口にする機会もどんどん減っていくだろう。アンリやインヴィンシブルズの栄光はいってみれば切り崩していく一方の貯金だ。

 

サンチェスとエジルの退団はチームの弱体化なんていう些末なことじゃなく、クラブが衰退していく象徴的な出来事として、メディアや世界中にいるファンに捉えられる可能性がある。それは明らかなブランドの低下だ。ブランド価値の低下はビジネスにも直結する。皮肉なことにそれは今のクラブ経営陣がもっとも望まないことなのだが。