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アニメ『3月のライオン』序盤について原作ファンの感想

満を持してはじまった羽海野チカ原作の2016秋アニメ『3月のライオン』。毎回楽しみに観ていて、ようやく第4話まで進んだところだ。

 

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原作マンガのほうは講談社漫画賞や手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞するなど、名実ともに大ヒットとなっていて、来年には実写映画化も決まっているという大人気作だ。原作があまりにも素晴らしいため、アニメ化や映画化については、スタッフのプレッシャーも並ではないだろう。

 

3月のライオン 西尾維新コラボ小説付き特装版 12 (ヤングアニマルコミックス)

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『3月のライオン』羽海野チカ | 白泉社

 

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アニメ『3月のライオン』原作ファンの感想

ぼくは『3月のライオン』はかなり好きなマンガだ。アニメが始まった段階で、1巻から最新の12巻まであらためて再読してみたが、やはり名作と呼ぶにふさわしい作品だと思った。

先日発売された12巻は、それまでの全体のテンションからするとちょっと本筋のストーリーから外れた息抜き成分が多いように思われたが、そこまでにかなり神経をすり減らす展開もあったので、長編で描く方も読む方もほっとできるタイミングがあってちょうどよかったと思う。続きに期待である。

 

そして肝心のアニメはといえば、始まるまえはシャフトの制作ということで、過剰なグラフィックなど個人的に若干苦手な演出が心配されたが、実際の「シャフト臭」はさほどでもなかったのはよかった。しいていえば「擬音の音声化」については、ちょっとどうかなとは思ったくらいで、それはべつにシャフトっぽいわけではない。

 

キャラデザも原作に忠実で違和感がなかったし、隅田川や佃あたりの街の雰囲気もよかったと思う。BUMP OF CHICKENもアニメのOP曲ED曲としてはかなりいいんじゃないか。アニメでだけ活躍するタイアップのバンドとかアーティストじゃなくて本当によかった。

欲をいえば、声優は有名声優じゃなくて無名の声優を起用してほしかった。たぶん、声優の人気に頼る必要のないくらいのコンテンツ力は十分にあったと思うから。3姉妹の茅野愛衣も花澤香菜も久野美咲もそれぞれはみんな好きなんだけど、声優の個性やイメージが強すぎて、ひなちゃんっていうよりはやっぱり花澤さんなんだよな。どうしても声がキャラから浮いて聞こえてしまう。あんまり考えたことがなかったけど、これが人気声優の弊害というものかもしれない。原作キャラに思い入れが強いとこういうことが起こるんだろうか。

 

ということで全体的にはまあまあいいアニメ化作品として見ているんだけど、ちょっと気になっているが脚本。なんというか第4話まであんまりフックのない展開で、初見の人にはこの物語がどういう物語なのかよく伝わらないんじゃないかと思ってしまった。

 

たとえば同時に始まった『ユーリ on ICE!!』などと比べていいかわからないが、それらに比べるとこのアニメの序盤までで新しい視聴者をつかめたとは全然思えない。

原作にはそれこそ忠実ではあるのだけど、忠実すぎていろんなエピソードを並列に拾いすぎているから散漫な印象があるというのか。本来、中身のないうわべだけの「優しい物語」なんかじゃ全然ないはずなのに、そう思ってしまう人がいそうな気がしてならない。

 

アニメでは、喪失感とか虚無感に押しつぶされそうな主人公、というこの物語の序盤に流れるモヤモヤしたネガティブで穏やかじゃない雰囲気を伏線としてもっと出してあげたほうがよかったんじゃないだろうか。ここまでは、コミカルパートだととくに、零が結構饒舌でふつうのちょっとおとなしい高校生男子に見えてしまう。もっとひとりで意味のない行動を取るとか、アニメオリジナルでもいいので病んでる描写がほしかったかなと。

 

アニメ公式サイトによると、第5話が零の不幸な過去が明らかにされる回のようだ。原作だとそこからぐっと深みが出て来るところなので、大いに期待したいところではある。

 

『3月のライオン』という作品の序盤は、主人公の桐山零がとにかく「もがく」という印象があって、いみじくも零が特別な感情を抱く義姉の香子からかけられた「おまえはゼロである(何もない)」ということばがまさに呪いとなって彼にのしかかっていく。

彼がひとりぼっちの寄る辺のない世界で「自分とは何なのだ」というアイデンティティ・クライシスにもがき苦しむ、というのが序盤のメインストーリーである。

そしてそんな彼を救うのが将棋でありライバルであり、また3姉妹や先生や部活の仲間や棋士の面々といった、暖かく見守る人々が彼の心を癒やしていき、零が救われることがある種のカタルシスとなるストーリーなのである。

だから、人々との暖かい交流のイメージだけが先行してしまって、そういう作品だと誤解してしまうことは非常にもったいないことであるので、アニメしか観ていないという方にはぜひともにこのあともがんばって観ていただきたい。

 

幸田香子が好き

最後に、このエントリの流れとはまったく関係ないが、ぼくは零の義理の姉「幸田香子」というキャラクターにどういうわけかすごく惹かれるんである。激しい気性の持ち主で悪魔のように美しいという。一見なに不自由のない家庭の子と思われながらも、将棋での挫折という零とはまた違った理由で同じように苦しむ。

CV井上麻里奈さんだそうだ。第5話から登場するはず。

原作ではしばらく音沙汰がないが、ふたりが一時はただならぬ関係にあったという伏線を回収しに、いずれかならずどこかで零のまえに現れてトラブルを起こしてくれるに違いない。まさに小悪魔。

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