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『1999年の夏休み』の思い出

昨夜『櫻の園』について調べていたら、『1999年の夏休み』がサジェストされた。大変に懐かしい。とても好きな映画だった。この映画から思い出される当時の思い出がいくつかある。

 


「1999年の夏休み」より

 

『1999年の夏休み』とは

『1999年の夏休み』は、萩尾望都の名作マンガ『トーマの心臓』を原案にした1988年公開の映画で、金子修介監督作品*1

 

劇場でも観たしビデオでも何度も観たくらいには好きだった。しかし、たしか当時でも『キネマ旬報』を購読しているようなメインストリームの映画ファンが喜ぶような作品ではなくて、一般的な評価はほとんどなかったんじゃないかと思う。たとえば現在でもWikipediaの単独ページはなく『トーマの心臓』の項のなかで映画化作品として触れられているだけという扱いだ。監督のWEBサイトに解説がある。

 

『1999年の夏休み』は、ハマった人だけが熱狂してしまうという一種のカルト映画だった(ちなみに同年公開の邦画のなかには『となりのトトロ』や『AKIRA』といった大作がある)。

「文芸座」や「ACTミニシアター」みたいな名画座で古いATG映画や単館映画ばかり観ていたぼくは、すっかりハマってしまって、好きな映画の話になればいつでもこの映画について熱く語ったものだ。

 

作品の大きな魅力は、やはりなんといっても少女が少年を演じることで生じる独特のフェティッシュな雰囲気だろう。

 

『トーマの心臓』の少年たちだけの美しく残酷で悲しい愛憎の世界を、この映画はまだ大人になりきっていない少女たちだけで描いている*2

男の子同士のはずなのに、お互い好きになったり嫌いになったり嫉妬したり殺したくなったり。閉じた世界のなかでたった4人で生きる彼らの人間関係はドロドロである。なんかイケないものを観てしまった感はある。しかしドロドロであるが見た目はあくまで美しい。それが余計に悲しい。少年特有のナルシシズム。それを少女が演じる倒錯。「少女のような少年」といえば、それは美少年を形容するための句であるけれど、まさにそれをそのまま具現化してしまったのがこの映画だ。

 

奇妙な近未来ガジェットと深い新緑に覆われる寄宿舎、夜の闇とランプのあかりが外界からの隔絶をイメージさせる。統一感のある幻想的なビジュアル・イメージも鮮烈だ。

少女たちの芝居がかった人工的な演技と合わせて、いつの時代のどこの国だかもわからない、SFちっくで不思議な世界。

 

また、音楽もいい。ピアニストの中村由利子のデビュー・アルバム「風の鏡」から楽曲を使用しているということで、映画オリジナルではないようだけれど透明感ある曲の雰囲気も世界観に非常にマッチしている。

 


「ウィスパリング・アイズ」中村由利子

 

風の鏡

風の鏡

 

 

『1999年の夏休み』と音楽の思い出ふたつ

音楽といえば、音楽がらみついででふたつばかり思い出を。

まず当時、ぼくらのような都市部の若ものにはUK音楽が流行っていて、その流れで日本の渋谷系のはしりのような音楽も聴いていたのだけど、そのなかのアーティストのひとりが『1999年の夏休み』にインスパイヤされて曲をつくったと聞いて、我が意を得たりと思ったものだ。

 

モーマス(Momus)というアーティストでそのものずばりのタイトル(Summer Holiday 1999)。このアルバム「ファブ・ギア(fab gear)」の4曲めに収録されている。Amazonでは視聴もできる。 暗くて地味な曲だ。フリッパーズ・ギターのふたりがプロデュースしたこのアルバムは当時結構売れたんだじゃないだろうか。

 

FAB GEAR

FAB GEAR

  • アーティスト: オムニバス,フリッパーズ・ギター,ディーン・ブロドリク,ザ・モノクローム・セット,エドウィン・コリンズ,モーマス,BRIDGE,マーティン・ベイツ,ファンシー・フェイス・グルービー・ネーム,セクター・マー,ルイ・フィリップ
  • 出版社/メーカー: ポリスター
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モーマスというアーティスト自体は特別好きというわけでもなかったけど、その辺のアーティストが来るたびに見に行っていたので来日公演にも行った記憶がある。たった一部とはいえ、この映画が海外でも評価している人がいたことが、まるで自分が褒められたかのようにうれしくなった。

 

もうひとつは、映画が公開された数年後に主演の宮島依里が行ったライブコンサートを見たこと。たしか原宿ルイード。

宮島依里さんはいまは声優として活躍されているそうだが、当時は歌手としても活動していた(しようとしていた)。

客の入りはよくなくて、もちろんそのときはインターネットもなかったから宮島依里と『1999年の夏休み』を結びつけて足を運んだ人はぼく以外ほとんどいなかったんじゃないか。

映画のファンだったぼくは、あの宮島依里がライブをやると聞いて「なんてこった!!」と興奮したけれどまわりの人たちに説明しても誰もそんなことに関心がなかった。肝心の音楽のほうは残念ながらあまり覚えていない。宮島依里ってこんな感じだったっけ、と少し成長した彼女を見て思ったのはうっすらと記憶にある。

 

そう、少年や少女の賞味期限は短いのだ。すぐに失われてしまうのだ。もろく儚いのだ。だからこそ少年(少女)のナルシシズムや醜さを結晶化したこの映画は美しい。アイドルをキャスティングするのにちょうどいい作品ではないか。

 

『1999年の夏休み』にリメイクはあるか

もはや新しいストーリーよりも実績のあるストーリーのほうが興行的に堅いということなのか、映画界ではリメイクが花盛りだ。もし過去作品のリメイクでアイドルを起用した映画をつくろうと思ったら、この映画はなかなかよい選択肢になるんじゃないだろうか。少女を魅力的に描けるストーリーであるのは確かだ。

 

もし『1999年の夏休み』のリメイク版をつくるとしたら、どんなものになるか。

オリジナルは1988年公開ということで、世はバブル景気、現在の基準から見ればそれなりのバジェットで作られた作品と考えていいだろう。現在の映画製作のバジェットでは、ロケ場所や小道具などの多くのパートがCGになるかもしれない。それと、30年のときを経てポップカルチャーがここまで爛熟した今、マーケティング的に「BL/GL」を前面に出すことになり、キスシーンがせいぜいだったオリジナルに比べて、もっと露骨に性的なシーンを盛り込まざるを得なくなるのかもしれない。

 

キャストはやはりボーイッシュな雰囲気が似合う女性アイドルにやってほしい。武田玲奈と生駒里奈くらいしか思い浮かばない。早くしないとふたりとも大人になってしまうので急いでほしい。

 

 

トーマの心臓1 萩尾望都Perfect Selection 1 (フラワーコミックススペシャル)

トーマの心臓1 萩尾望都Perfect Selection 1 (フラワーコミックススペシャル)

 
トーマの心臓2 萩尾望都Perfect Selection 2 (フラワーコミックスペシャル)

トーマの心臓2 萩尾望都Perfect Selection 2 (フラワーコミックスペシャル)

 

 

 

*1:金子修介というとなぜかロリコンが想起されるがそれは今関あきよしと混同していただけだった。すまない。

*2:兄貴分的存在のオスカー(直人)を演じる中野みゆきはこのなかでは少女というには少々成長しすぎであるが逆にそれがエロい。少し唾液がのびるキスシーンとか。